今年度の文化遺産演習は、9月15日から17日にかけて、富山県南砺市にある五箇山集落で開講されました。演習の前に2日程度事前学習の機会があり、五箇山の歴史、文化、生業など自分の興味のある分野についてレポートを書き発表しました。3日間の寝食の拠点となる菅沼集落内にある「合掌の里」に入ったのは前日の夕方からで、とある生徒が大遅刻して夕食開始の時間が伸びた事件以外は、特段トラブルは無く、これから始まる3日間の非日常に皆浮足立っていたように思います。

[1日目]
 合掌の里で朝ごはんを食べた後、皆で平(たいら)地域にバスで向かいました。歓迎のセレモニーが終わった後、「平地域づくり協議会」の方々主導のもと学生同士のディスカッションが始まりました。テーマは「当事者からみる世界遺産の正と負の影響について」ということで、急に始まったこともあり最初は戸惑いましたが全員真剣に話し合い、世界遺産というシステムについて再確認する有意義な時間となりました。そのあとは楮(こうず)集落に移動して「ぼべら」という小さいカボチャを収穫しました。当日は暑かったということもあり、汗を流すため、くろば温泉に入湯しました。夜ごはんは合掌の里に戻って報恩講料理を頂きました。報恩講料理というのはこの地域伝統の精進料理で、かつては特別な日にしか食べられた貴重なものだったようです。

ディスカッションの様子         報恩講料理を頂く

[2日目]
 2日目は朝からお昼まで一日中稲刈りをするということで、皆作業服を着て準備万全の状態で相倉(あいのくら)地域に向かいました。稲刈りは他の地域の方々も参加した大規模な行事でした。前日から続きこの日も快晴でかなりハードな作業となりました。昼食を頂いたあと、またもや温泉に入り体を清めてから西赤尾町の行徳寺さんとお隣の重要文化財「岩瀬家」を見学しました。行徳寺は「赤尾の道宗」が開基したお寺で民藝運動ともゆかりの深い古刹で現道宗さんのお話も聞くことができました。両方とも見ごたえ抜群でした。夜には楮集落の方と懇親会があり、「おじさんバンド ing」の生演奏ライブを観ました。学生たちも歌ったりMCに参加したりと非常に盛り上がった夜でした。

稲刈りの様子             おじさんバンドingと学生の掛け合いMC

[3日目]
 3日目の午後には解散ということで、五箇山での暮らしはあっという間だったと記憶しています。午前中は「ささら」と呼ばれる伝統楽器を作りました。木の板が連なった小気味良い音が鳴る楽器で、板を紐に通す際の緩み具合で音の良し悪しが決まってしまうという事で皆真剣にささらを組み立てていました。お別れ会では今までごはん等全般のお世話をして頂いたあきらさんが伝統衣装に身を包み「こきりこ節」を披露してくださいました。平時の優しそうな雰囲気とは打って変わり、クールな職人感が非常に格好良かったです。

ささら制作の様子           あきらさんのこきりこ節

[総括]
実のところ、大学院へ進学し授業を受けるまで、五箇山について本当に無知でした。世界遺産には登録されているよな、程度の認識で当時は同じく合掌造り集落の白川郷の方が印象にあったように思います。それが、この演習や事前学習を通して五箇山についての活きた知識・体験を得ることができました。例えば、事前の学習では、囲むようにそびえる山と集落を囲むように流れる庄川によって、外界と分断された五箇山地域は江戸時代には流刑地として使用されていたと学びました。それだけでは「ふーん、そうなんだ。」で終わってしまうかもしれません。私は高岡から世界遺産バスを使って合掌の里へ向かったのですが、どんどん山深くなっていく風景に「あぁなるほどな。」と感じました。報恩講料理にも一緒で、一度でも訪れるとその知識は体験と結びつきより深い理解を得ることができます。研究においても同じことが言えることかもしれません。文化的景観など文化遺産を正しく評価するためには第三者的な視点も重要ですが、一度は実際に現地に赴き知識と体験を結ぶ作業が必要不可欠であると強く実感した演習となりました。

(M1 岸)