今年度の美術遺産演習は10月7日-8日の二日間にかけて行われました。1日目は静嘉堂美術館特別展「二つの頂―宋磁と清朝官窯」と根津美術館所蔵、特に2日目は東京国立博物館 東洋館所蔵の中国仏教美術を鑑賞し、展示方法についてレポートを書きました。この演習のテーマは「仏像のような宗教美術の展示方法を考える」でした。これは宗教美術が本来の使用方法を考慮した展示がされているか、という問題について実際の資料を鑑賞しながら考えてみるというものです。本来であれば、仏像をはじめとする宗教美術は信仰の対象であるという性質上、何らかの宗教施設に置かれていたものが多く、原位置・元の所在と異なる場所での展示が宗教美術の内包する土地性を奪っているのではないかという議論がされてきました。ただ、現実的に収蔵している宗教美術は盗品など出自が分からず既に土地性を失っているものも少なくありません。そのような場合には可能な限り「正しく見せる」努力が必要です。しかしながら、美術館等では鑑賞者の目線で「美しく見せる」必要もあり、展示方法の設定には一筋縄ではいかない感があります。本演習ではこの「正しく見せる展示」と「美しく見せる展示」について八木先生の解説の下学びました。

[1日目]
 仏教美術の鑑賞に移る前のアイスブレイクとして静嘉堂美術館で特別展「二つの頂―宋磁と清朝官窯」を鑑賞しました。この二つの頂というのは、中国陶磁器において最盛期である宋代と清代の作品のことで、これらを中心に構成された展示でした。また当館の目玉でもある曜変天目も健在で非常に見ごたえのある展示でした。つづく根津美術館では北魏、北斉、唐代の石仏などが展示されており、こちらも見ごたえ抜群の展示でした。屋根の勾配に合わせて背の順に並んだ仏像や実は正面を向いていない柱(仏龕)など、普通の鑑賞では気が付かないポイント満載でした。

 
静嘉堂美術館                                  根津美術館、屋根の勾配に合わせた仏像展示

[2日目]
 2日目は東京国立博物館 東洋館の仏教美術の鑑賞をしました。東洋館は主に中国、カンボジア、エジプトなどアジア広域の美術作品を展示しているエリアで、主に4-8Cの中国の仏像彫刻を鑑賞しました。初日に培った観察眼で皆真剣に仏像を観察していました。ここでも、恐らく上半身と下半身が別の仏像なのにも関わらず接着されてしまった例など、一人では絶対に気が付かないような展示がありました。その後は少し見つかりにくい場所にある法隆寺宝物館で飛鳥時代の仏教美術を鑑賞し、解散となりました。


東洋館                                                法隆寺宝物館

[総括]
今まで自分が仏教美術を鑑賞する際は、つい彫刻の出来や保存状態など目に見える情報だけに注視していました。しかし今回の美術遺産演習では美術遺産論にて学んだ、その資料が作られた時代の背景を知ること、他の資料と比較し相違点を探すことを意識し実践することがようやくできたと思います。そのような視線を持ち資料を鑑賞したところ、今まで何気なく見ていたような展示に、膨大な量のメタ情報が含まれていることが実感できました。 

私の専攻は保存科学ですが、対象を保存修復する際にはこれらの美術史的視点を持ちつつ、可能な限り美術史や他の専門家と共同して作業を行う重要性を改めて感じました。

(M1 岸)