2023年8月26日から8月31日にかけて、自然遺産演習の履修生たちは小笠原諸島に行ってまいりました(船中2泊)。

滞在1日目
島に到着してまずは、小笠原村福祉センターとネコ待合所に行きました。 小笠原村福祉センターでは、小笠原諸島でノネコ(飼い主がいない、人に依存していない野性のネコ)問題がどのように発生し、どのように対処してきたのかを学びました。また、アカガシラカラスバトがどのようにして絶滅危惧種になったのか、それに対して地元ではどのような保護対策が取られているのかも学びました。講義の中で、父島母島ともにノラネコ(飼い主がいない、人に依存している半野性のネコ)が0頭となり、父島の南崎に、これまで記録されてこなかったアカガシラカラスバトの繁殖地が確認されたと聞いて嬉しく感じました。
ネコ待合所では、ノネコを捕まえるための檻を見ました。材料が特殊であるため、日本製ではなく意外と高価であることを知りました。待合所には一匹しかノネコはいなかったのですが、時々低い唸り声を上げていて、ちょっと怖いと感じました。


島に到着           ねこ待合所にいるノネコ

滞在2日目
2日目は小笠原ビジターセンター・小笠原村役場・環境省世界遺産センターを訪れました。
小笠原ビジターセンターでは、ビデオで小笠原の自然環境を、展示パネルで小笠原の動物や植物、政策などを学びました。小笠原の文化に関する展示パネルは少なく、当地の民家が1軒しか展示されていませんでした。小笠原の風習や生活に関する情報が加わると、小笠原の魅力をさらに高めることができると考えました。
小笠原村役場では、村長と現在世界遺産学学位プログラムの博士前期課程2年に所属しながら村役場に勤めている先輩にお会いしました。村長の話しから、東京からの渡航時間が39時間から3回の段階を経て24時間まで短縮されたこと、小笠原のホエールウォッチングが日本初のエコツアーであることを知りました。当時の村長はエコツアーという用語を知らず、ただできるだけ環境を守りたいという想いから取り組んだところは、興味深く聞きました。この発想があったからこそ、遺産登録前も小笠原諸島の環境は保護され、結果、世界自然遺産に登録されたと言えます。
環境省世界遺産センターでは、世界遺産管理と外来種対策を中心にお話をうかがいました。この講義を通して、小笠原の登録理由を具体的に理解するとともに、ネズミや外来種でカタツムリを捕食するリクウズムシ、アリなど貝類への脅威と対策も学びました。関心を持ったのは、環境省の人手不足という問題です。今、小笠原で従事している職員は4人しかいなく、しかもやるべきことが多いため、世界遺産管理を続けるためには、何らかの対策をしなければならないと考えました。

滞在3日目と4日目
森林生態系保護地域である東平サンクチュアリの森・山歩き・南島エコツアーを体験しました。森・山歩きを通じて、タコノキ、ムニンノボタン、アコウザンショウ、マルハチなどの植物や、アカガシラカラスバトのような動物の話をしてもらいました。
険しい道ですが、頂上に着いて豊かな森と綺麗な海を見下ろすと幸せでした。ただ、森林生態系保護地域であるため、トレイルは現状、土のままですが、ある程度の道の整備が必要と考えられます。特に雨が降ると滑りやすくなり、著者は途中2度ほど転倒しそうになりました。また、ガイドの人数は多くはないため、イヤホンガイドのような用具を整備した方がいいではないかと考えました。今回、私たちは20人ぐらいで1人のガイドさんに案内してもらったのですが、全員に対して一度に解説できるほど広いスペースはありませんでした。これでは重複作業になり、ツアーの効率も落ちると考えられます。
3日目の夜、晩御飯を食べた後10人程度でナイトツアーを行いました。私たちはトンネルを通って、ネコ待合所に近い寄港地まで行きました。途中でオカヤドカリを発見しました。寄港地でサメ観察をしたかったのですが、残念ながら見つかりませんでした。しかし、意外と寄港地の周りは私たちと同じくサメを見に来る人が集まっていました。
4日目は、南島エコツアーに参加しました。船で、南島・縦島・閂島・霊岸島などを巡り、各島と太平洋の美しい風景を見ることができました。船上で各島のことを紹介していただいたのですが、デッキの上では、強風のせいで解説を聞き取れませんでした。紹介の中にはたくさん知らない単語が出てきて、観光客、特に外国人観光客には少し分かりにくいかもしれないと思いました。


エコツアー(舗装されていないトレイル)

まとめ
今回の自然遺産演習を通して、小笠原諸島の現状をよりリアルに理解することができ、事前課題の重要性も十分に理解しました。インターネットで見つけた情報と現地調査で見つけた現状を比較し、その違いをまとめたのは興味深い作業でした。例えば、小笠原諸島ではノネコに天敵がいないためノネコ問題が発生していると考えられますが、実は小笠原諸島には猛禽類のノスリという猫の天敵が生息しており、捕食した記録がないため天敵がないと見做されているのです。
このように事前課題の時に読んだ文献と1日目、2日目の「講義」で得られた知見を、3日目と4日目の「体験」に当てはまることで、小笠原諸島における自然環境の魅力をより身近に感じることができたと思います。


山頂からの眺め  東京に帰ります

(M1 スウ)