2023年9月12日から9月14日にかけて、「プランニング演習」の現地演習として、世界文化遺産に登録された白川村(荻町)と五箇山(菅沼・相倉)集落を中心に、同じ白川村や五箇山の他集落もまわりました。
1日目(9月12日)
富山駅で集合した後、まずは相倉集落を見学しました。相倉集落は平地区のほぼ中心に位置し、北東にゆるく傾斜する細長い台地に広がっています。各集落では、観光客としての体験を得るために、教員による集落の歴史的背景の簡単な紹介の後、各自の自由見学を行いました。
外国人留学生として集落の風景を初めて見た時、頭の中にただ一つの思いが浮かびました。「美しすぎます!」
現地演習の前に、GISを用いて特定の場所から見える範囲を算出し「可視・不可視、被視頻度の観点から評価して、適地検索を行う」という事前課題があったので、各自想定した活動にした場所を探すという明確な目的を持って見学しました。その結果、筆者は特に、世界遺産に登録された3集落に感銘を受けました。

相倉集落では、集落内で和紙漉きなどの生業体験ができるのですが、われわれは集落内に設定されている、標高・位置付けの異なるいくつかの展望地に行って、集落景観の変化を体験してみました。展望地で景観を見て一番感じたのは、「集落の遊歩道を歩いていると合掌造りばかりに目がいくが、展望地に立つと、集落周辺の雄大な山や鬱蒼とした森といった自然環境に気づく」ということでした。

相倉2 相倉1
展望地からみた相倉集落

相倉集落を見て回って後、世界遺産に登録された集落から離れた場所(上梨集落)にある合掌民宿弥次兵衛に宿泊し、近くにある国民宿舎五箇山荘で温泉に入りました。民宿では、囲炉裏で焼かれたイワナなど「五箇山料理」を食べました。
弥治兵衛の囲炉裏囲炉裏で焼かれるイワナ

2日目(9月13日)
民宿周辺の文化財や地域資源(白山宮・流刑小屋・羽馬家住宅・旧上中田念仏道場・五箇山民謡発祥の地)などを見学した後、菅沼集落に行きました。
菅沼集落には、現在9戸の合掌造り家屋が残っています。菅沼集落は規模が小さいだけでなく、周囲の環境に包まれている感じがあり、安心感があるように思いました。
菅沼集落で特に気付いたのは、大きな鯉のいる池があることと道の脇に細い水路があることです。水路の目的は雪が積もるのを防ぐためのことでした。この点も昔から受け継がれる生活の知恵が窺えました。

菅沼
菅沼集落と雪解け用の池

現在、菅沼集落では合掌造り民家の屋根材に使うための茅場を造成しており、その協力者に、筑波大学世界遺産専攻も含まれています。
茅場造成地茅場の造成

次に訪れた岩瀬家は、江戸時代に五箇山における塩硝の上煮役をつとめた藤井長右衛門が住宅と役宅を兼ねて建築したものです。
岩瀬家にいた時、皆様は囲炉裏を囲んで弘法茶を飲みながら、現当主による岩瀬家を中心とした集落の歴史をうかがいました。とても居心地がよかったです。2階および3階には民具が展示されていました。3階以上はかつて養蚕が営まれていました。また、五箇山の民謡で使う和楽器―棒ささらと板ささらの使い方を教えてもらい、当主ご夫妻と一緒に演奏しました。

岩瀬家 岩瀬家2 こきりこ和楽器
岩瀬家でのこきりこ体験

その後訪れた道の駅白川郷は、休憩や食事ができるだけでなく合掌造りの構造が丸ごとわかる博物館も併設されています。休憩しながら白川郷の建造物特徴も理解でき、他の道の駅と比べると、特徴的な施設と考えられます。
その後、私たちは白川郷展望台に行きました。写真でわかる通り、すごく美しいでしょう!荻町城展望台では、中世史に詳しい履修生から、荻町集落の歴史を教えていただきました。

荻町城跡
展望台からの荻町と荻町城跡

荻町では、空き家を改修した花植家に宿泊し、参加した皆で懇親を深めました。

3日目(9月14日)
まず、白川村荻町から離れた南方にある旧遠山住宅民俗資料館を訪れました。遠山家は、かつての大家族制を偲ばせる壮大な規模と山間の緑濃い環境にしっくり調和する風格と美しさを誇っていました。
館内には、過去使っていた用具や服装・祭壇が展示されており、白川村の歴史と研究史も解説されていました。その後、白川郷(荻町)にまた戻って最後の自由見学を行ない、現地演習が終わりました。

旧遠山家 旧遠山家2
旧遠山家の展示

白川郷荻町を訪れた時、五箇山の相倉や菅沼の集落を訪れたときの感想とは違っていました。五箇山では集落の規模が小さく、観光客がそれほど多くなかったため、静かで和やかな雰囲気を感じました。一方、白川郷荻町では、観光客数が多く、特に海外観光客が多かったため、本来の住民の日常生活を垣間見ることはできず、全体的に集落の商品化が進んでいる印象を受けました。

まとめ
今回のプランニング演習で、三つの集落を巡って見学・体験して、白川郷と五箇山について理解を深めました。白川郷・五箇山の現地見学を通して、以下の点が気になりました。
白川郷では、観光客が多すぎるために、ゴミ捨てやポイ捨てなど地域の環境への悪影響や、地域住民との軋轢が発生する可能性もあると思いました。現地演習後の白川村役場の方からも、観光客(特に海外からの観光客)が、住民の私有地に入り込んでしまうことがある、とうかがいました。
五箇山では、白川郷の状況とは異なり、観光客が少ないことが最大の課題だと思いました。観光客数が少ないことは地域住民の収入経路の減少につながり、地域住民の所得水準を低下させることにもなりかねないと思うのですが、住民が現状の観光客数をどう思っているのか気になりました。

白川郷と五箇山は、いずれも同じ合掌造り民家の集落が評価された文化遺産ですが、地理位置やその歴史から異なる点が多く、かつて管轄や交通の関係から交流がなかったからこそ、現在のような異なる集落環境が生まれたのだろうと思いました。

大学に戻ってからは、この現地演習を踏まえた観光計画づくりに取り組んでいます。

(M1 スウ)