本年度の自然遺産演習は8月28日から9月1日の期間、小笠原諸島父島にて世界遺産学学位プログラムの学生と、自然保護寄附講座の学生あわせて18名が参加しました。学生たちは事前授業で小笠原諸島の文化や歴史、自然などのテーマをそれぞれ担当し、プレゼンテーションを行い、学んできました。昨年にはコロナ禍で本実習が断念されたこともあり、不安もあるなか、参加者は全員、事前のPCR検査とおがさわら丸下船前の抗原検査を実施し、基本的な感染対策を徹底して本実習に臨みました。

父島到着後は世界遺産センターを見学し、小笠原自然文化研究所の方々、環境省の自然保護官の方から小笠原の希少種保護の取り組みや成果、課題などについてお話を伺いました。小笠原村のネコの適正な飼養と管理を図るペット条例と研究所の取り組みでは、多様な機関、島民との連携のほか、ペットの適正飼養、保護の取り組みが行われてきたことを学びました。その結果アカガシラカラスバトの個体数が回復したことや、未だ根強く残るネズミの駆除問題についても課題が残っていることを知りました。また、自然保護官の方からは、グリーンアノールやネズミなどの外来種駆除問題についてお話しいただきました。多くの生物の生息域で、特定の生物だけを効率的に駆除することの難しさや、未侵入域の新たな侵入が危惧されていることを知りました。現場をみてこられた方々からのお話は大変貴重で、皆さんの取り組みによって小笠原の自然が支えられているのだと改めて感じました。

滞在二日目は、小笠原村役場を訪問し、渋谷正昭村長から直々にお話を伺いました。渋谷村長は、小笠原のエコツーリズムをけん引してこられ、小笠原のエコツーリズムの原点ともいえるホエールウォッチングの商業化にかかわる当時のようすや自主ルールの制定、小笠原の観光振興などについてお話いただきました。長年小笠原のエコツーリズムに携わってこられた村長からのお話は大変興味深く、特に小笠原のホエールウォッチングルールをはじめとした自主ルールは、小笠原のエコツーリズムに重要な役割を果たしてきたことを知りました。質問の時間には、学生たちから多くの質問がありましたが、村長は一つずつ丁寧にご回答くださり、学生たちの関心がより深まった様子でした。

村役場訪問後は東平アカガシラカラスバトサンクチュアリーに訪問し、林野庁とグリーンサポートスタッフの方々からお話を伺い、実際にサンクチュアリー内を歩きました。サンクチュアリーは森林生態系保護地域内であるため、指定ルート入口に設置されている種子除去装置を使用しました。これは、外来種の侵入と拡散を防止するもので、一人一人靴底の泥を落とし、木酢液をかけ、コロコロを使って服についている種子を協力しながら除去したうえで入林しました。徹底した保護策を体感しながら、あいにくの雨ではありましたが、小笠原固有種アサヒエビネ(絶滅危惧Ⅱ類)を観察することができました。夜は経験したことのない台風による暴風暴雨に見舞われましたが、無事翌日を迎えることができました。

滞在三日目は、小港海岸から中山峠まで歩き、小笠原の雄大な自然と海を体感しました。小港海岸では小笠原の起源に関わる枕状溶岩を観察したり、天然記念物オカヤドカリをみることができました。午後は小笠原海洋センターと小笠原水産センターを訪問しました。海洋センターでは、アオウミガメと小笠原の歴史の展示を見て、バックヤードでカメの観察をしました。水産センターでは小笠原の海に生息する魚の観察や、アカバの歯磨きを楽しみました。

最終日は、南島に訪れました。南島の利用は認定を受けた東京都自然ガイドの同行が必須であり、南島の自然の解説とルールを基本とした利用の指導のもとツアーに参加しました。学生たちは、上陸前に南島の利用のルールについての説明を熱心に聞いていました。南島では、カツオドリなど海鳥の営巣の様子や、ヒロベソカタマイマイの半化石など、南島の自然を間近に観察することができました。

今回実習で訪れた父島では、NPO法人、環境省、林野庁、村役場、観光業者など、多様な立場の方々からお話を伺うことができました。小笠原の自然保護はこのようなたくさんの機関の連携・協力があって実現されていることを肌で感じ、より深く学ぶことができました。一方で、未だ根強い課題があることを知り、小笠原の未来について検討し続けたいと感じました。

個体数の回復したアカガシラカラスバト(アカポッポ)

指定ルート入口に設置されている種子除去装置で外来種の侵入と拡散を防止

認定を受けた東京都自然ガイド同行による南島ツアーで台風一過の様子を見学

(M1 半田)