「遺産整備計画演習」報告/ Report Seminar on Project Development and Management of Heritage Sites

土浦の町にかつて張り巡らされていた水路の痕跡をたどる
2026年度の「遺産整備計画演習」の授業では4回の現地見学を実施しました。 本ページでは、その様子をご紹介します。
初めての見学では、茨城県土浦市にある亀城の周辺を探索しました。現地調査を通じ、遺産整備を学ぶ上で歴史学的側面と建築学的側面の双方が不可欠であることを、身をもって体感することができました。事前学習として作成した調査用地図を参照しながら街を歩いて特徴的な物件や町割の痕跡を探し出すフィールドワークでは、地域の時間的・空間的変遷を自分たちの目と足で辿りました。その結果、自身の市街地の見方が変化していくことを実感することができました。また茨城県指定史跡第1号である亀城跡および櫓門を保存活用する「亀城公園」では、木材・金具の形状や種別のほか原材保持と修繕の痕跡を学びました。その後登録有形文化財(建造物)である旧大徳呉服店を保存活用する「土浦まちかど蔵 大徳」において土蔵造の町屋建築に備えられた書院座敷に上がらせていただき、しつらえ(建築空間内で人が快適に過ごせるように場を整える配置や道具のこと)を見学するとともに調査時の心得について学びました。
2回目の見学では、つくば市内の文化財を巡検しました。

学術的意義と優れた意匠が評価される旧矢中家住宅
まず、つくば市教育局文化財課課長の石橋様にご同道いただき、「小田城跡歴史ひろば」および「遺構復元広場」、次いで「平沢官衙遺跡歴史ひろば」を見学しました。地域で成長する次世代への史跡の価値を理解し継承していってほしいという期待のもと、展示づくりや史跡の整備を行なっているというお話が印象的でした。当日もひろばを訪問する地域の子どもたちの姿を見かけ、公共施設として安全性と利便性を担保することの重要さを改めて認識しました。
最後に、国指定重要文化財である旧矢中家住宅本館・別館を有する「矢中の杜」を見学しました。NPO法人「“矢中の杜”の守り人」の方々にお迎えいただき、随所に凝らされた機能と意匠をご案内いただきました。長らく空き家だったもののNPOの方々による地道なお手入れを経て今に至るという経緯を知り、通気性を重視したという建築の特性と人為的な介入の相乗効果によって公開が実現されたことに感銘を受けました。また2023年に重要文化財指定された物件であることから、指定前後で現状変更に関する意識を変える必要があったことも伺うことができました。

旧栄養食配給所に残るナゾの設備
3回目の見学では、協同組合伝統技法研究会代表理事の大平様にご案内いただき、埼玉県川越市の伝統的建造物群保存地区近辺を踏査しました。建築を「使い継ぐ」というキーワードのもと、保存地区の内外に点在する歴史的諸建築がいかに建物の特性を残しつつ、それと適合するような用途で活用されているか、あるいはその中途にあるかを実見しました。「コエトコ」では建設当時の使用状況が完全にわかっていない施設をあえてそのまま見せる実践がされており、展示手法としても興味深かったです。伝建地区の家賃高騰に伴い、オルタナティブな選択肢として小規模な商いをしたい方が入居しているという弁天横丁にもうかがいました。歴史的建造物が持つ可能性の多様な側面にいかに価値を見出し、活用しつつ保存していくかという点について考えるきっかけをいただきました。
4回目の見学では、NPO法人「小野川と佐原の町並みを考える会」様にご案内いただき、千葉県香取市佐原を歩きました。行程の前半で街歩きを行い、歴史的建造物にふれることは過去の人々の暮らしぶりを読み解く手がかりになることを理解できました。また、その価値を伝えるために素材や意匠を峻別することの重要性も学びました。商業の街として発展した佐原に数多く建ち並ぶ土蔵について「土蔵を建て、維持管理するとは具体的にどのような営みなのか」を現地でお示しいただき、インタープリテーションの実践としても大変参考になりました。

樋橋の復元に際しては、道に対する角度が焦点となった
後半には講義としてNPOが携わってきた保存運動の経緯をお話しいただきました。重要伝統建造物群保存地区選定後も佐原で活動する別の団体や他地域との連携と地域の人々との交流を通して保存と活用に尽力されているものの、過疎化と資金調達という課題に直面していることをうかがい、これらが避けては通れない問題であることを改めて実感しました。
本演習では、関東地方の4箇所のまちなみについて、現地訪問と事前・事後の調査を経験することにより、調査時の基礎的な心構えと視座を学ぶことができました。演習を通じて時代や保存状況が異なる各地域の様相を深く理解するとともに、共通の課題を類推する機会ともなりました。一連の演習を踏まえて得られた知見は、今後の研究の確かな基盤となるものでした。
(M1 大芝)
