文化遺産演習レポート / Report on the Seminar on Cultural Heritage
2026年9月10日~9月13日にかけて実施された「文化遺産演習」では、おもに富山県南砺市の五箇山を中心に以下の日程で演習を行いました。この記事では、その活動の様子をご紹介します。
【10日】夕方に飯美館(宿泊先)に到着
【11日】午前:相倉にて写真撮影、午後:写真共有会、五箇山和紙紙すき体験
【12日】午前:相倉での稲刈り体験、午後:楮(こうず)にて棚田石積み、聖光寺への訪問、懇親会への参加
【13日】午前:小白川散策、ささらづくり体験
【10日】 関東から移動し飯美館へ
大学のあるつくばから電車と新幹線、世界遺産バスを乗り継ぎ約5時間半。夕方、今回演習の活動拠点・五箇山(富山)と小白川にある飯美館(岐阜)に到着しました。この日は、はやめにお風呂を済ませ、白川郷のブランド豚である「結旨豚」の美味しい味噌カツをいただき、次の日からの活動に備えました。
興味深いことに、活動拠点となった五箇山は富山県ですが、4日間滞在した小白川の飯美館は庄川を挟んだ対岸の岐阜県に位置しており、ここが両県の境界となっています。この地は古くから加賀藩領(五箇山)と幕府の直轄地(白川郷)との国境であり、かつては口留番所(関所)が置かれていたそうです。県は異なるものの、かつては川の両岸にロープを用いた「籠の渡し」が架けられ人が行き来していたといい、古くから深い関わりを持ってきた土地であることがうかがえます。滞在中は何気なく「富山」と「岐阜」を何度も往来していましたが、この歴史を知ると、ただの県境をまたぐ橋もとても興味深いものに感じられました。

高台から見た五箇山の様子

4日間滞在する飯美館に到着
【11日(1日目)】午前:相倉での写真撮影、午後:写真共有、五箇山和紙すき体験
活動1日目は、演習の主な活動のひとつである写真集作成に取り組みました。今年度は「写真集をつくろう」ということで、相倉合掌造り集落を散策し、学生が水や石、生活、暮らしなどそれぞれテーマを設定し、世界遺産学を学ぶ学生の目線から相倉の写真を撮りました。
撮影の前には、主に富山県を拠点にドキュメンタリーや映画、動画などを手掛けるカメラマンの林賢二氏から、写真の撮り方のコツやテーマ設定、さらには切り取り方や写真の並び・全体の流れまで、写真集づくりを見据えたアドバイスをいただきました。その後、相倉集落に移動し、いざ撮影に臨みます。「相倉のなにを、どう撮ることで表現したいのか」。普段テーマや意図をもって写真を撮ることがないため、最初はどこか手探りで不安でしたが、約1時間半の時間をたっぷり使って学生ら各々が自分の思う相倉の姿を写真に収めました。
午後は美味しいお弁当をいただいた後、写真を選び、撮影した写真やテーマついてグループに分かれて発表しました。林さんからも撮影する対象や設定したテーマ、切り取り方にそれぞれの想いや個性が表れていると評価いただき、一冊の写真集として形になるのが今からとても楽しみになりました。

林さんからのアドバイスを聞いている様子

いざ、写真撮影
そのあとは、「越中和紙」として国の伝統的工芸品にも指定されている五箇山和紙の紙すき体験をしました。私たちは、楮(こうぞ)を原料に手間と時間をかけてつくられる和紙生産の工程のうち、簀桁(すけた)と呼ばれる道具を使い一枚一枚その繊維を漉き上げる「紙すき」を体験させていただきました。丁寧に皮はぎやあく抜き、ちりとりがされた紙材を扱う緊張感のなか、均等の厚さになるよう漉くのは想像以上に難しく、丈夫で美しい五箇山和紙の背景には長い歴史と技術を継承される方々の丁寧な職人仕事があることを体感しました。

紙すき:簀桁を使い水平に水気を切る様子
(M1 因)
【12日(2日目)】 午前:相倉での稲刈り体験、午後:楮で棚田石積み、聖光寺への訪問、懇親会の参加
2日目の午前は、相倉集落にて稲刈り作業を行いました。平地域づくり協議会・世界遺産米作り実行委員会が主催する 「世界遺産で米作り」という取り組みの一環として、5月に植えられた稲を収穫しました。今回の参加者の中には、実際に5月の田植えを担当した学生もおり、春から続く活動の成果を自ら刈り取る、特別な体験となりました。 天候は曇りの予報でしたが、作業が始まる頃には太陽が差し込み、暑さの中での稲刈りとなりました。機械を使わず手作業で進めたため大変ではありましたが、刈り終えた稲が美しく干されていく様子を見て、大きな達成感を味わうことができました。

5月の田植えの様子

収穫後の稲を干すはさかけの様子

稲刈りの集合写真
午後は楮(こうず)集落の皆さんとともに、おそろいのポロシャツを着て棚田の石積み作業に取り組みました。昔から地域住民の皆さんが石を積んで段々畑として使われてきた楮の石積棚田ですが、現在では冬に棚田ライトアップが行われるなどその美しい景観の保全も行われています。2024年1月1日に発生した能登半島地震の際、世界遺産学学位プログラムの先輩方が過去に積んだ石積みが崩れなかったというお話を伺い、私たちも負けないくらい丁寧に積み上げようと意気込んで作業に臨みました。石をバランスよく、かつ美しく積む作業は難しく、集落の方々に助けていただきながら、崩れてしまった箇所を元の姿へと戻すことができました。自分たちの手で積み上げた石積みが形として残るのを見ると、やはり大きな達成感があり、今後も長く地域に残り続けてほしいと感じました。

石積み作業中の写真

石積みの集合写真
夕食後には、楮集落にある聖光寺を訪れました。聖光寺には、聖徳太子が2歳の頃の姿を表した尊像が安置されており、今回特別に拝見させていただきました。 なぜこの地に聖徳太子像が伝わっているのか、浄土真宗が地域に広まった背景など、歴史的な経緯についても詳しくお話を伺うことができました。
五箇山といえば「合掌造りの世界遺産」というイメージが強くありますが、実際に訪れてみると、地域に根付いた信仰・文化が数多く存在し、それらが荘厳でとても豪華な造りであることにも気づかされます。世界遺産だけでは語り尽くせない、深い歴史的価値を持つ地域であることを改めて実感しました。
夜には、楮集落の皆さん、そしてボランティアで参加されていた4名の方々と懇親会を行いました。 毎年恒例のおじさんバンド「ing」による力強い演奏に会場全体が巻き込まれ、ダンスや歌で大いに盛り上がりました。また、筑波大学大学院の先輩が作詞・作曲した『ボベラの歌』も披露され、楮集落との長年の信頼関係を改めて実感する時間となりました。

懇親会の様子
【13日(3日目)】 午前:小白川散策、ささらづくり体験
最終日は、五箇山地方に伝わる伝統的な民謡こきりこの楽器「ささら」の制作を体験しました。 今回は仕上げの工程のみを担当しましたが、それでも美しく仕上げるには細かな作業が求められました。ご指導いただいた地域住民の大瀬和美氏によると、熟練の職人は一つのささらをわずか6分で作り上げるとのことで、その技術の高さに驚かされました。 完成後は、実際にささらを手に全員で「こきりこ~♪」と謡いながら踊りを体験しました。音を鳴らしながらステップを踏むのは難しかったものの、旅の締めくくりとして全員で踊りきることができました。
帰路では誰一人乗り過ごすことなく無事にバスへ乗車し、帰宅しました。 五箇山は豊かな自然に囲まれ、そして何より人の温かさが印象的な場所でした。参加した学生からも、中山間地域の自然や世界遺産だけでなくそこにある人々の生活、継承される文化を体験することができたとの声がきかれました。普段の生活では経験できない多くの学びと体験に恵まれ、非常に充実した実習となりました。滞在先や集落の皆さんをはじめとした多くの方のサポートとご協力のもと無事演習を終えることができました。お世話になった皆さまに心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。

ささらづくりの様子

ささらづくり体験の集合写真
(M1矢萩)
