8月26日から8月31日(台風のため1日短縮)にかけて、小笠原諸島の父島を舞台に「自然遺産演習」が開講されました。2024年度は世界遺産学学位プログラムの学生と自然保護寄附講座の学生あわせて17人が参加しました。往復の船内で1泊ずつしたため、父島に滞在した3日間の活動について紹介します。

8月27日
 昼頃に父島の二見港に到着し、午後に小笠原村役場と小笠原世界遺産センターの訪問をしました。小笠原村役場では、渋谷正昭村長から小笠原村におけるエコツーリズムの歴史と試みについてお話をお聞きし、エコツーリズムに参加する観光客として自覚を持った行動が求められると改めて感じました。また、小笠原村役場に勤められている世界遺産学学位プログラムの修了生である半田文氏から、現在取り組んでいるゴミの分別活動のお話をしていただき、実際の回収場所も見学しました。
 小笠原世界遺産センターでは環境省のレンジャー(自然保護官)の方から、島内の固有種保護についてのお話を伺いました。ヘリコプターによる殺鼠剤散布やヤギ対策フェンスなど小笠原諸島の多様な外来種対策をご紹介いただき、現地で対策に携わる方たちの努力に敬服するばかりでした。また、センター内に設置されている動物対処室も見学させていただきました。
 夜には宿泊先の玄関でウミガメの赤ちゃんを発見するという事件も発生しました。さっそく先生方と多くの学生が保護に駆けつけ、最終的には近くのビーチから海へ返しました。元気に育ってまた小笠原へ戻ってきてくれることを祈ります。

8月28日
 滞在二日目は、島の南部に位置する中山峠をめざしてハイキングを行いました。ハイキングコースは森林生態系保護地域に含まれるため、入域前に靴裏の土をマットとブラシで落とし、衣服にも粘着クリーナーをかけて付着した種子を除去します。また、塩や酸に弱いプラナリアへの対策として酢のスプレーも使用しています。これらの対策は知識としては知っていましたが、実際にどのように運用されているかを体験することができました。ハイキング中はムニンヒメツバキやテリハハマボウなどの固有種も観察しました。また、残念ながら特定外来生物のグリーンアノールも複数発見しました。中山峠から飛行場建設予定地を見学した後は、小港海岸へ降りて枕状溶岩を見学し、昼食と自由時間を過ごしました。
 午後は小笠原海洋センターへ移動し、ウミガメについてレクチャーを受け、甲羅磨きや埋卵体験、給餌を体験させていただきました。特に埋卵体験では柔らかい卵を一つ一つ移し替えていくため、参加者は皆緊張した面持ちで慎重に取り組んでいました。

8月29日

 台風の影響で貨客船「おがさわら丸」の出航が1日早まり、この日の15時に父島を離れることとなったため、残念ながら午後に予定していた東平アカガシラカラスバトサンクチュアリ訪問は実現しませんでした。
午前中は予定通り小笠原村地域福祉センターで小笠原におけるノネコ問題についてレクチャーを受け、その後は付近のねこ待合所(通称ねこまち)を見学させていただきました。島で捕獲されたノネコが、東京の受け入れ先の動物病院が決まるまで過ごす場所です。訪問時は1匹のノネコが捕獲されていましたが、運搬が間に合わず見ることはできませんでした。小笠原村では条例でペットのマイクロチップ登録、避妊去勢手術をすることが定められているそうです。
 本演習では小笠原諸島の自然保護に携わる様々な方からお話を伺い、ノネコ問題だけではなく、エコツーリズムやウミガメ、特定外来生物の排除など、小笠原諸島の生物多様性は多くの関係機関や行政、住民の協力があってこそ保たれるものだと痛感しました。この演習の貴重な体験を今後の研究にも活かしていきたいと思います。 

小笠原村役場前にて渋谷村長、世界遺産学学位プログラム修了生の半田文氏と

(M1 牧)