2023度5月12日、「世界遺産論」の一環として、世界遺産学学位プログラムの修士1年生が、初めて全員で現地見学を行いました。今回は、群馬県にある近代産業遺産の、碓氷製糸場、富岡製糸場、旧韮塚製糸場と富岡倉庫群を見学しました。

碓氷製糸場の方による全体説明

碓氷製糸場
明治・大正時代には、日本各地にさまざまな製糸場が開設され、1951年にはピークに達して288の製糸場が開設されました。しかし、時代の変遷により、現在も稼働している製糸場は4社しかありません。このうち、碓氷製糸場では日本で最も生産量が多く(純国産絹織物の60%を占めております)、長い歴史を持つ製糸場です。
【見学内容】
現在も稼働している糸の生産ラインにて、碓氷製糸場の方から、糸の生産工程に沿って工程ごとに設備や操作内容を紹介していただきました。これによって、糸は荷受-乾繭-貯繭-選繭-煮繭-繰糸-揚返し-仕上げ、という8つの工程があることがわかりました。これによって、設備の動き方や動かし方、生産に当たっての工夫を体感したと思います。

揚返し 煮繭機

富岡製糸場
1872年に、西洋式製糸技術の導入、外国人専門家の指導、全国募集による工女の工場での労働・学習と、故郷に帰って当地での製糸業指導を目的に、明治政府によって官営の機械化模範製糸場として設立されました。
富岡製糸場の工場棟は日本と西洋の建築技術と合わさった工場建築であり、高さ100メートルを超える2棟のレンガ造りの建物と製糸施設は現在も残っております。

富岡製糸場の生産ライン 西置繭所

【見学内容】
製糸場の担当官(筑波大学世界遺産専攻第一期生)から、ビデオ上映などにより富岡製糸場の歴史や世界文化遺産になった経緯などを紹介していただきました。
その後1時間ほど、繭を貯蔵していた東置繭所や、ブリュナ館(外国人専門家であったブリュナが居住した後、工女の学校として使用)を見学しながら、建物の特徴以外にインタープリテーションの取り組みなどを解説いただきました。
最後に、国宝「西置繭所」を30分ほど見学しました。ここでは、壁と天井をガラスで囲った鉄骨造の部屋を導入した「ハウス・イン・ハウス」の手法により、1階部を多目的ホールや資料展示室に分け、元の単一空間を有機的に再生して新たな特性を持つ空間機能を生み出していました。

旧韮塚製糸場
富岡製糸場周辺地域では、富岡製糸場を模範とした製糸場がいくつか設立されました。旧韮塚製糸場は1876年10月に韮塚直次郎が設立した工場であり、1879年頃まで運営していました。
【見学内容】
現在旧韮塚製糸場は、産業遺産の一部として来訪者のための展示施設に転用され、かつて栄えた産業遺産を見ることができます。また、姿を変えてしまった歴史的建造物を修復する地元での文化財保護の苦労も知ることができます。

富岡倉庫
富岡倉庫は、明治30年代に富岡倉庫株式会社が建設したもので、3つの倉庫と1つの乾燥場で構成されており、主に繭や穀物など、富岡ならではの生産品の保管に使用されました。

富岡倉庫

【見学内容】
富岡倉庫活用プロジェクトは、隈研吾建築都市設計事務所が建物を改修設計し、現在ではカフェを併設した県立世界遺産センターとして活用されています。

まとめ
今回の見学を通して、遺産に関する解説は、来訪者の目標に基づいて設定する必要があることを学びました。後日、学生は3班に分かれて、訪問者がより富岡製糸場に親しみ、その保全や利用に対する責任を感じることができるための「ブリュナ館」の今後の活用計画を立て、授業で発表しました。こうすることで、見学で学んだことを統合することはもちろん、世界遺産の保存と活用についても、より好奇心や想像力を高めることができるのではないかと思いました。
現場で体験して学び続け、教室で得た理論的な知識と実践的な知識を組み合わせてることで、我々学生は世界遺産の魅力をより深く理解し、世界遺産研究に取り組んでいけるのではないかと思います。

(M1 馬 赫)